話題の生体認証(バイオメトリクス)を考える
※本記事はメールマガジン「3分で読める! 今週のITセキュリティ(2004/10/29号)」に掲載されたものです
セキュリティが厳しく問われる今日、生体認証が注目を集めている。大がかりな認証装置はもちろん、USBメモリや携帯端末など安価なものも増えてきた。PCの世界では、指紋認証を富士通がいち早く搭載したが、つい数日前にもPC界の巨人IBMが人気ノートPCシリーズ「ThinkPad」に搭載し、出荷を開始した。
パスワードを運用するにあたり、もっとも大変なことが他人から予想されにくく、さらに自分でも忘れにくいパスワードを用意することだ。その点、生体認証は使ってみると確かに便利だ。複雑なパスワードを覚える必要がない。
便利な側面がある一方、デメリットも
しかし、生体認証が万能かといえば、決してそうとはいえない。第一の問題は、生体認証における「正確さ」の問題だ。
認証する際に、登録しているデータと認証を求めるデータの間で、どの程度の一致をもって「認証」とするか、という問題だ。その設定を厳しくすれば、同一人物であっても認証が難しくなることがあり得る。一方、ある程度の特徴をもって認証とするのであれば、似ている特徴を持った人間まで認証されてしまう。
正確性と可用性のバランスは、製品によってまちまちで基準がない。指紋であれば「特徴点」を用いるのが一般的だが、独自の認識方法により、誤認識の確率を下げた製品なども登場している。とはいえ、安全性を100%保証することは不可能だ。統計的なテストは行えるものの、すべてのケースにおいてテストを実施することは不可能だからだ。
次に第二の問題として、認証に用いる部分をケガしてしまった場合や、当人が何らかの理由で認証できないケースにどのように対処するかだ。また、体が不自由な方もおり、サービスそのものが利用できない場合もある。
指紋など、複数の指で認証をとるのもひとつの手だ。しかし、すべての指に火傷を負ってしまった場合など、どうだろう。レアケースかもしれないが、可能性がないわけではない。また、当人が急遽亡くなってしまった場合はどうであろうか。「以後、誰もアクセスできない」ということでは困ってしまう。「生体認証だけ」では完結できず、結局はパスワードも用意しなくてはならないのが現実だ。利用者の利便性は向上するものの、従来通りパスワードの管理から逃れることはできない。
一番のネック、それは「生体情報」の管理
第三の問題。生体認証のデータの管理方法だ。もし、管理している生体認証が流出したらどうなるであろうか。これが一番の問題だ。
生体認証に用いられるデータこそ最高レベルの「個人情報」である。もし外部へ流出すれば、大きな問題となるのは必至だ。偽造される可能性もあり、そのデータ自体二度と使えないものとなってしまう。しかも、これらは固有データで、当人が変更ができるものではない。IDや暗証番号のように、再発行ができる代物ではないのだ。
「生体情報そのもの」の管理は完全な安全を確保しなくてはならないので非常に大変だ。一方で、管理するサーバの認証にはパスワードが用いられていることも多々ある。先に挙げた第二の問題同様、生体認証を用いれば、最悪の場合システムにアクセスできなくなる場合もあるし、そもそもコンピュータは「パスワードによる管理」が基本だからだ。
データの管理にあたっては他の認証と同様、管理者の「モラル」という大きな問題も未解決だ。クラッキングなどが行われなくとも、管理者当人が情報を持ち出してしまえば、意味がない。
日々発展する生体認証。技術そのものはかなり成熟してきた。しかし、「管理」という側面ではパスワードと同等のリスクがあるし、漏洩時はパスワードと比較にならない被害が発生するおそれもある。利便性だけにとらわれず、別の角度からリスクを分析する必要が出てきている。
(Security NEXT - 2004/11/02 )
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