特許における企業リスクを考える
※本記事はメールマガジン「3分で読める! 今週のITセキュリティ(2005/2/4号)」に掲載されたものです。
企業の根幹を揺るがす「特許リスク」
今週、大きな話題となった事件といえば、松下電器産業とジャストシステムの特許訴訟だ。
松下電器ではワープロ専用機のヘルプ機能について1989年に出願、特許を取得している。問題となった特許とは、ヘルプアイコンを押した後に、他のボタンを押すと、本来の機能ではなく、機能の説明を表示するというものだ。
ジャストシステムでは、ヘルプ機能を「一太郎」「花子」といった同社主力製品に搭載しており、松下電器は同機能が特許を侵害しているとし、販売中止を求め2004年8月に提訴した。
東京地裁の判決では、流通製品の破棄、製造、販売の禁止と松下電器側の主張が受け入れられ、ジャストシステム側が敗訴する形となった。同社は不服として控訴するとしており、仮執行の命令も出ていないため、ジャストシステムは、両製品のバージョンアップ製品を近々市場へ投入する見込みだ。
一太郎・花子に関する報道につきまして(ジャストシステム)
http://www.justsystem.co.jp/news/2005f/news/j02012.html
商標の利用についても争いに
諸外国でも、IT企業が特許や商標絡みで訴訟問題へ発展するケースは多い。先日フランスでは、Googleの広告機能が商標を侵害すると認める判決があったばかりだ。
Googleでは、広告主が検索語句を自由に設定でき、それら語句が検索された際に、広告表示を行うことが可能だ。たとえば、ライバル企業名などをキーワードとして設定することで、ライバル企業へアクセスしようとしたユーザーを取り込むといった手法が可能なわけだ。今回は、キーワードに商標が無断で利用された企業が、「商標を不正に利用されている」として訴えたわけだ。
上記のようなアイデアは、この手の広告における常套手段であり、Googleのビジネスモデルそのものと言っても過言ではない。しかし、フランスでは敗訴したことにより、該当語句を排除しなければならなくなる。
もちろん、Googleも黙っておらず、上訴すると見られる。特許紛争とは少々異なるが、知的財産権の侵害により、事業に影響を及ぼした例だ。
「特許」は機密情報から生まれる
本メールマガジンでは、企業のセキュリティ問題を中心に扱っているが、今回のような特許の侵害リスクは、これらセキュリティ問題と同様、企業の命運を左右すると言って良いだろう。
特許の取得は、製造業などの分野において新たなビジネスを展開する上で必要不可欠だが、他社に特許を取得され自社の事業を制限されるといった事態を「防御」するためにも重要なミッションだ。また、知らぬ間に特許侵害を行っていれば、損害賠償の支払いが求められるリスクも高い(今回の訴訟では損害賠償を求められていないが)。
しかし、企業が特許を扱う上で大切なのは、「紛争」への対応だけではない。特許が、企業の存続に関係する以上、出願前の機密情報についても「情報漏洩」から守らなければ意味がない。
出願前に発明内容が掲示板で公開されてしまえば、公知情報となってビジネスチャンスを失うだろう。それこそ情報がライバル企業へ流出すれば、先に出願されるなど、チャンスがむしろリスクとなってしまう。
発明にはセキュアな環境が必須
機密情報は、個人情報保護と異なり運用面での煩わしさは少ないものの、ケアレスミスによる紛失や社員の犯罪行為による漏洩など、あらゆるシーンで漏洩する可能性がある。
社内の部門間はもちろん、特許事務所など、特許取得にあたり、メールで情報交換が行いたいのであれば、当然暗号化や電子署名など、セキュアな環境を用意しなくてはならない。
実際、特許事務所のなかにはネットワーク経由による電子ファイルの交換を嫌い、物理メディアに限定しているところもあるくらいだ。とはいえ、インターネット経由による出願も今年中に開始となるため、今後はネットワークを業務から切り離して考えることはできまい。早急な対応が求められるだろう。
また、関係者による情報のリークといった危険もある、この点については、不正競争防止法が強化され、機密情報不正利用における罰則を盛り込んだ法律改正案が近いうちに国会へ提出される見込みだ。もちろん、「機密情報取扱規程」など、社内の規則を再点検することも重要だろう。
経産省が不正競争防止法改正案を取りまとめ
http://www.security-next.com/001295.html
個人情報保護においては、プライバシーポリシーの策定や社内教育など、対策が徐々に浸透しつつある。しかし、個人情報だけではなく機密情報という大きな枠組みで捉え、対策を立てておくことも求められている。
(Security NEXT - 2005/02/25 )
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